(8)入山初日の真夜中

12月30日(火)〜31日(水)

たかじろうは何故、この地に降り立ったのか・・

夜中にふと目が覚める。
(今、気がついたのだけど フト って半角カタカナ表記だとなんだかハングル文字みたい)
うーーっ、トイレに行きたい・・・。 でも戸外はおろか室内でもかなり寒い。そうだ、この時のたかじろうのいでたちから 説明せねばなるまい。前日の山行ではカヌーで沈してズブ濡れたように汗を かいたため下着を替えた。(そういう状態でなければ着替えないのか・・・?) その上に山シャツと山ズボンを着け、フリースを着てアノラックを被る。更に 麓で借りたダウンジャケットを着ている。もちろん靴下を穿き手袋も着けている。 持てるもの全て身につけたというところか。
その格好でカバー付きのシュラフに潜る。それでも顔が冷たいのでシュラフを 絞って呼吸口だけにする。このような状態で寝ているものだからよほどのことが ない限りシュラフから這い出るのはいやだ。しかし生理的欲求は静かに、しかし 確実にその度合いを高めてくる。さて、どうしたものか。このまま朝までごまかして 寝るか。ごそごそと腕を出して時計を見る。うわっ、まだ11時だ。 ということは朝まであと6時間以上我慢せねばならない訳だ。そうとわかると先程まで 次第に強力になる内なる欲求に抗い均衡状態にあった精神力の壁が一気に押し流されて しまった。ここは一念発起、コトを済ませてゆっくり寝直す方が得策ではないか、と 考える。脱皮よろしくシュラフを脱ぎ捨てたたかじろうはヘッドライトを持ち戸外へ 出た。このビレタンティの村には電気がなく(もちろんこの先にもない)ライトは 必需品である。トイレ内部にももちろん照明がないので予め灯りで確認しておかないと あらぬところに足を突っ込む羽目になる。眠いのと寒いので体が言うことをきかないな か、 やっとのことで思いを遂げたたかじろうは再びサナギになるべく母屋へ向かった。
あれっ、目が慣れたからなのかやたらと戸外が明るいぞ。月明りにしてもこれは明る すぎるような気がする。見上げると・・・
しばし、溜息
今まで見たことのない(”ような”ではなく、あきらかに”ない”)星空だ。
星の数が断然多いこれが今まで見たのと同じ夜空なのが信じられない。 星の粒々も大きい。すごく近く見える。なんだか空が降ってきそうだ。いや、ずっと 上を向いて眺めていると吸い込まれそうだ。綺麗なんてもんじゃなく、なんだか 恐くなってくる。雲の欠片ひとつないぞ。違いの判るたかじろうは部屋からコンロと コッフェルを持ち出し、ベトナム豆でコーヒーを煎れた。
それにしても電気のないこの宿がこれほど快適なのはなぜだ? 日本の山小屋にも 電気の通っていないところは多々あるのだけれど・・・ それほど小屋が込んでいない からなのか。夜は皆、早く寝るからなのか。トイレがきれいだからだろうか。それとも 喰い物が思ったよりウマいから? サンミゲールが呑めるから? とにかくシアワセ なのだ。(最後のヤツがなければシアワセ半減かもしれない)
しかし、いつまでもこんなことはしていられない。明日も朝早いので寝なければ・・・

部屋に戻ってロウソクを灯す。シュラフの内側が冷たーくなっている。やだな、 これで寝るの・・・ 重ねた毛布で寝ているディーパックのを剥ぎ取るか。

昨晩、夜遊びをしたにも関わらず朝5時半に目が覚めた。
でも時差をを考えると 日本は7時45分なのでそれほど苦にならない。でもさすがに小屋の人たちは起きては いない。戸外へ出てまた自分で湯を沸かす。6時半には小屋番が起きだして朝の支度を 始めだした。自分で煎れたのはミルクも砂糖もないコーヒーだったので、チベット茶の 飛びっきり甘いのを煎れてもらった。最初の朝にカトマンズでこの茶を飲んだ時、 ”こんな甘い(ヤク乳とグラニュー糖たっぷりオンナ子ども仕様)茶なんぞのめるかーっ” と思っていたのだがなかなかどうして旨いやん。キムチじゃないけれど朝は甘いの 摂って血糖値上げなけりゃ。さすがに昨日の山行はハードだったらしい。
 おおっ! お茶を堪能しているうちに宿の前庭正面に見えるアンナプルナ・サウス、 ヒンチュリー、マチャプチャレに、向かって右側から朝日があたり始めた。
まず、一番東側にあるマチャプチャレのピークがオレンジ色に染まる。その背後の 空は真っ青。急いで部屋にFE2(たかじろうが昨年タイで水没させたFEの 後継機)をとりに戻る。ここまでの4日、あまり写真を撮ってなかったけれど (まして、前日は歩くのが精一杯であまり写真がないのが帰国してから判明。
よっぽどきつかったみたいね) ややっ、サウスの広い南壁にも朝日が・・・
結局、ここだけで15フレームは撮ったかなぁ。ホンの10分が勝負の光景でした。

(9)入山2日目
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